スタートアップの健全な育成と、適切な社会的活用を図るための
社会への警鐘!

米国と肩を並べて世界の経済をけん引していた1990 年代を経て、 大きな変化への対応が求められる2000 年以降において、 我が国がスタートアップの振興を怠ってきたわけではないはずだ。 しかし、その実効が確保されないまま 数十年も放置されてきたことによって、 我が国経済は大きく毀損されている、 ということを真摯に受け止める必要がある。

例えば、1990 年代当時の我が国の産業活力、経済規模をベースとして、この数10 年の間、 スタートアップの社会的活用ができていなかった(米国と同程度の)ことにより、 例えば企業の時価総額において、米国(4倍強)と、我が国(2倍強)の伸びに2倍近い開きがあることを考えれば、 この間に、数百兆円に及ぶ企業の潜在的価値が毀損し、 ひいては我が国の経済に大きな損失を与えている事を忘れてはならない。

このため、我々独自の現場での取り組みを進めるにあたって、以下①~③の、 関係者に共通する課題や、現行制度に補足すべき項目、修正・改善すべき視点等について、
  1. ① 成功支援から、チャレンジ支援への転換
  2. リスクマネーの供給拡大の在り方
  3. スタートアップEXITの在り方
早急な検討と対策の必要性について、政府・社会に警鐘を鳴らすとともに、 我々も関係機関と協力・連携して、具体的検討を継続することとしたい。

成功支援からチャレンジ支援に

スタートアップについて、とかく上場に成功した企業や、ユニコーンといった成功案件のみがメディア等でもてはやされがちであり、こうした一面的な報道や取り扱いが、企業や国民、社会全体の起業、スタートアップに対する正しいリテラシーの醸成を歪めてはいないだろうか。
もちろん、スタートアップの成功は極めて貴重だが、9割以上のチャレンジは成功にいたらないのが現実であり、スタートアップへの社会的取り組みが欧米諸国や新興国よりも大きく遅れている我が国にとっては、ごく限られた成功をもてはやすのみではなく、その成否にかかわらず、スタートアップに対するチャレンジそのものの社会的重要性を理解し、支援していくことが必要であり、これこそが我が国が目指すべき、スタートアップエコシステムの本質ではないか。

こうした中、政府の施策においても、その成功を目的、前提とした案件の募集や評価、採択が強調される傾向にあり、チャレンジそのものではなく、成功をもてはやす社会の風潮を助長している感が否めない。
このため、スタートアップエコシステムの太宗を占める「成功には至らなかったチャレンジからの学び」、そうした案件への支援として投入された「貴重な人材や資金等の膨大な社会的リソース」の大半が社会的な評価を得られず、また、社会に活用されることなく放置されている現状は、次なるチャレンジ支援へのモチベーションを阻害し、拡大すべきチャレンジ支援の動きに水をかけることにほかならず、社会全体で取り組んでいくべき我が国のエコシステム構築への取組としては不適切と言わざるを得ない。
また、政府の施策が、民間の取り組みを圧迫するリスクがあることに留意し、民間の取り組み支援を基本としつつ、その呼び水としての規制緩和や、スタートアップ支援に向けた社会的価値観の誘導や、環境整備に注力することが重要である。
こうしたことが、長年、その重要性を訴えながらも、欧米諸国のみならず、多くの新興国の後塵を拝する結果となっている、大きな原因の一つになっているのではないだろうか。

我が国における起業家の育成、起業の活性化・高度化、再チャレンジの加速や質的向上という、スタートアップエコシステムの質・量、両面にわたる充実を図っていくためには、政府、自治体、教育関係機関(大学、専門学校)等が、ほんの一握りしかない成功事例に偏ることなく、率先してチャレンジ経験(者)の活用やチャレンジそのものを支援する施策の展開や運用等を通じ、正しい知識、情報の普及に努め、今後のわが国の発展に当たっては、イノベーションの重要性、そのためには、新たなチャレンジが不可欠であるという、社会全体のスタートアップリテラシーの向上に努め、社会(企業、地域、国民)が総力を挙げて、スタートアップの育成やその活用に積極的に取り組んでいける体制を構築していくことが急務となっている。

リスクマネーの供給拡大

スタートアップにリスクはつきものである。むしろ、スタートアップがリスクにチャレンジし、そのチャレンジを社会が支え、多くの失敗からの学びがあるところに成功があり、それが社会・経済の変革や、生活の向上をもたらすものである。この際、何が成功するかを事前に知ることも決めることもできないことから、スタートアップエコシステムにおいては、より多くの質の高いチャレンジを加速、支援することが必要であり、このためのリスクマネーの円滑な供給が不可避である。

例えば、スペースX が、打ち上げのテストに失敗したとき、詰めかけた聴衆から歓声が沸き、解説者からも、「さらなる発展に向け多くの事を学べた」と前向きなコメントがあり、また、主要な出資者の一人でもあるイーロンマスク代表は、すぐさまチームに、「エキサイティングなテスト打ち上げおめでとう!数か月後の次回のテストに向けて多くの事を学びました」とお祝いのコメントを送った。 一方、我が国のJAXAがロケットの打ち上げに失敗したとき、責任者が深くお詫びをする映像は、あまりに対照的である。

スタートアップの成功面のみをもてはやす社会の風潮や、我が国社会におけるスタートアップリテラシーの低さとあいまって、予測不能な成功を見極めようと、チャレンジそのものの支援を控えたり、躊躇することになってはいないだろうか。 特に、リスクマネーの供給元であるはずのVCやCVC、さらには政府支援の施策やその運用においては、成功をもてはやす社会的風潮に流されることなく、チャレンジそのものがより加速され、支援される体制となっているか、例えば以下のような点について緊急に確認・検証することが必要ではないか。

  • VCのチャレンジ支援能力や実績が適切に評価され、資金調達に反映される仕組みになっているか。

  • より高度なチャレンジ支援能力を滋養し、発揮できる、リスクマネー(運用期間、対象ステージ等)を調達可能な環境が整備されているか。

  • 公的支援により、VCのチャレンジ支援機能がより高度化、強化されているか、ないしは、公的支援においても「運用実績等」を重要視する等により、チャレンジ支援を阻害することになっていないか。

  • 事業シナジーや、新規分野の開拓等の長期的チャレンジを支援するCVCが育ち、活発に運用され、社会的に適正に評価される仕組みとなっているか。

スタートアップEXITの多様化

スタートアップの成功の象徴たる主要な出口(イグジット)を、IPOに依拠することが多いが、我が国経済の再興や国民生活の向上、社会の変革、さらには国際社会への貢献といった国策にも通じるスタートアップの成功と、さらなる事業展開のスタートにもあたる出口(イグジット)については、例えば以下のような点について確認するとともに、多面的な検討を行うことが急務である。

  • 社会的変革や国際的事業にチャレンジするスタートアップのイグジットを一般投資家の保護が優先する現行のIPOの仕組みにのみ委ねて良いのか。

  • スタートアップの社会的・国際的チャレンジを支援、伴走する事業会社によるCVC、M&A等の活性化に向け、企業活動の新たな社会的評価が必要ではないか。 (例えば、SR、SDGS、社会、環境、健康等に加え、社会変革(イノベーション)への貢献等)

  • 投資家保護と社会的重要性等のバランスを考慮した新たな市場の整備は可能か。

  • 未上場株式を対象としたセカンダリーマーケットの整備は可能か。

  • IPOに際し、その時期や規模、財務内容等について、ビジネス予見性を欠く現状のビジネス慣行の見直しは可能か。

以上の①~③の各点について、政府、自治体、支援機関、企業等、すべての関係者において、早急な検討・検証や修正が行われることを期待する。

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